
最終日、どうしても18番グリーン周りで観戦したいと思ったら、朝4時には起きなければならない。
まだ真っ暗な中、マスターズのロゴ入り折りたたみ椅子を抱えて、オーガスタナショナルのゲート前に到着すると、さすがに一番乗りは難しいものの、先着10名様ぐらいまでには入ることができる。
だが、安心するのはまだ早い。
その順番のまま、入場できるわけではないからである。東の空が白み始める頃には、もう最後尾が見えないほどの長蛇の列。
やがて7時半。
開門と同時に、みなが一斉にセキュリティチェックの前に殺到する。
ちょうど空港のボディチェックのような機械が、横一列にズラッと並んでいるのだが、その中のどこに並ぶかで、かなりの運不運が発生する。というのも、なかには機械の警報を鳴らしてしまう人がいて、その列に並んでいると大渋滞に巻き込まれてしまうからである。
ボディチェックを無事通過すれば、そこはもうコースの中ではあるのだが、いくらも進まない先に、まだもうひとつ木製の柵が行く手をふさいでいる。そこでジリジリと待たされること、およそ1時間。
8時45分。
「各馬一斉にスタート!」という感じで、いよいよ18番グリーン目指して全員が走り出すのである。もちろん、警備係が厳しい表情で「走るな!」と、叫び続けているのだが、このときばかりはパトロンの勢い勝ち。
アップヒルを登って、首尾よく18番グリーン周りに椅子を置くことができたときは、何か大きな仕事を達成したような満足感が胸に迫ってくるのである。
額の汗を拭い、息を整えながら前後左右を見渡すと、ついさっきまでは先を争い合った敵同士が、一種戦友のような不思議な連帯感を抱きながら微笑みを交わすのである。
ここまでで、起床してからすでに5時間近く経過している。
最終日の18番グリーンには、
高揚感の中に一抹の寂しさが漂う
ホッと一息つくと、急激に睡魔が襲ってくる。まだ、目の前の18番グリーンでは芝刈りが始まったばかり……すぐ後ろの1番ティで朝イチの組がスタートするまで、30分以上たっぷりある。

「千里の道も第三章」でも、最終日の18番グリーンの
席取りシーンが登場する(単行本第25巻に収録)
その時間にサンドイッチとコーヒーで軽く食事を済ませ、ちょっと転寝(うたたね)していると……オーガスタのあちこちから上がる大歓声に、すぐにたたき起こされるのである。
どのホールで何が起こったのか、リーダーズボードを見上げると、思わせぶりにスコアがゆっくりと変わり、そこでまたパトロンは目の前にはいない選手のバーディやイーグルに大歓声を上げるのである。
そのようにして、最終日はゆっくりとフィナーレに向かっていく。
18番グリーンに陣取っていると、一組また一組と、選手たちが上がってくる。国籍や人種や、スコアの良し悪しを問わず、4日間を戦い抜いた選手たちに、パトロンは敬愛の気持ちをこめて惜しみない拍手を送る。
やがて、優勝争いが絞られてくる。なんともいえない高揚感が、コース全体を包む。その空気のどこかに、祭りの終わりが近づいたことを予感させる一抹の寂しさを漂わせながら……。
踏みしだかれた芝生から立ちのぼる饐えたにおいさえ、いとおしく思えてくる夕暮れ時に、すべての戦いが終わる。
終わった途端、もう来年が待ち遠しくて仕方ない。
それが、マスターズ!


